เข้าสู่ระบบ東京拘置所の特別面会室。冷たい透明の仕切りの向こうで、麗奈が手錠のついた両手を震わせていた。青い収容服、乱れた髪、涙でただれた目元。ダイヤモンドのネックレスも、隙のないメイクもなく、かつての傲慢さの面影はなかった。鉄のドアが鳴った。
黒いスーツの怜司が入り、向かいへ座った。面会は捜査担当者の要請で設けられたものだった。麗奈が被害者に示談条件を伝えろと言い張り、怜司は拒絶を記録に残すために来たのだ。
「れ、怜司さん……!」
麗奈は仕切りに手を置き、泣き出した。
「お願い、ここから出して。もう一日だっていられない! ご飯は砂みたいだし、ほかの女たちは私を殴るの。全部、静江様に言われて仕方なくやったことよ! あなたが好きで、そばにいたかっただけなのに!」
怜司は最後まで聞いても、表情を変えなかった。
「好きだった?」
短く聞き返した。
「5年前、紗月と俺の子を殺すために興信所へ金を払い、昨日は4歳の子の点滴を引き抜いて血を流させた。それ
午前9時、502号室前。ドアが静かに開いた。意外な格好に、朝食を用意していた紗月が目を丸くした。高価な仕立てのスーツではなく、地味なグレーのスウェットに古いジーンズ。腰には、色鮮やかな花柄のエプロンを巻いた怜司が立っていた。両手には病院が許可したゴム手袋と使い捨てモップ、中性洗剤を持っている。「怜司さん……その格好で、何をしているんですか?」紗月があきれたように目を細めると、怜司は頭を下げた。「鷹宮グループ会長ではなく、掃除を習いに来た鷹宮怜司です。許していただけるなら、床から始めます」使い捨てモップを組み立て、まず許可された洗剤を量った。ベッドで有機栽培のリンゴを食べていた悠真は、腕を組んで作業を厳しく見ていた。「ねえ、掃除のおじさん」怜司がすぐに顔を上げた。「はい、審査員さん」「ベッドの下、まだほこりがあるよ。奥まで入れて拭かないと。初心者だね」言われたとおりに、怜司はモップの角度を変えた。額の汗を袖で拭こうとして、手袋をつけていると気づき、止めた。「わかりました。やり直します」ベッドの下へ身を伏せ、苦労して床を拭く姿に、紗月は顔を背けた。笑いを隠すのに必死だった。床をぴかぴかにした怜司が汗まみれで見上げると、悠真は顎を上げ、採点表を差し出した。「掃除はまあまあ。でも、パパの試験はまだ最初だよ。おじさんは、不合格」さらに、採点表の下へ三つの規則を書き足した。【怒鳴らない/勝手に触らない/ママを困らせない】「一個でも破ったら、すぐ退場だからね」「全部守ります」「『守ります』って言うだけじゃ、だめだからね」「はい。言う前に、ちゃんとやります」それを聞いても、悠真はすぐには点をくれなかった。怜司はベッドの下から出てきた小さなロボットの腕を拾い、手を止めた。「これは、触ってもいいですか?」悠真は少し考えてから、手のひらを出した。「ぼくにちょうだい。自分で直す」怜司は小さな
捜査とその後の対応をまとめた報告書が、怜司のデスクへ置かれた。【容疑者・関係者の捜査および保全処分の状況】1.黒崎麗奈:凶器を伴う傷害、殺人未遂の教唆、診療記録偽造、横領の容疑で、身柄拘束のまま起訴。主要口座・不動産の保全決定。2.黒崎誠一:医療関連法令違反、背任、リベートの容疑で、身柄拘束のまま起訴。医療センター理事長を解任、財団業務から排除。3.鷹宮静江:殺人教唆、児童略取教唆の容疑で捜査中。鑑定留置、および保有株式の議決権行使禁止の仮処分決定。4.5年前の興信所とカルテ改ざんの関係者12人:口座追跡と事情聴取を進行中。一部について身柄拘束の令状を請求。紗月を追い出し、その父の死を招いた5年前の件は、もう家の内輪話ではなかった。捜査記録と起訴状になっていた。佐伯が書類を閉じた。「会長、被害回復信託への50億円の拠出が済みました。受益者は紗月さんと悠真くんですが、受け取るかどうか、いつ受け取るかは、お二人の代理人が決めます。医療センターは外部理事を含む公益財団への再編手続きに入りました」少なくとも、グループの名と金で二人へ直接危害を加える道は閉ざされた。怜司は大きな窓の向こうの青空を見て、深く息を吐いた。報告書の下には、次の予定が並んでいた。麗奈の公判前の手続き、静江の鑑定結果提出、桐生の国内移送要請の審査、医療センターの内部監査中間発表。表題は「完了報告」でも、終わった事件は一つもなかった。怜司は、まず表題を「進捗報告」へ直させた。「判決前なのに、有罪が確定したように書くな。被害回復も、金を入れたら終わりではない」「麗奈と母の状態を、面白おかしく書いた報告もいらない。確認するのは、捜査の日程と被害者を守る措置だ」午前の検察の聴取では、なぜ偽の診断書を疑わなかったか、紗月の連絡をどう遮断したかまで話した。不利になる可能性を告げられても、答えを変えなかった。午後には担当教授から、骨髄回復の検査と退院後の感染対策を教わった。紗月より先に質問せず、彼女の確認が終わってから、聞き漏らした点だけをメモした。怜司に必要なのは罰を自分で
伊豆沖の小さな島にある、法務省指定の閉鎖医療病棟。拘置中に脳血管の異常を疑う症状が出た静江は、裁判所の鑑定留置決定によって、一時的に移されていた。重い鉄扉が開き、安全ベルトで体を固定した車椅子に乗って、中へ入った。患者衣の静江は、宙を見つめてつぶやいていた。「私は鷹宮グループの会長夫人よ……怜司、ダイヤのネックレスを持ってきなさい……」血管性の認知障害は疑われたが、刑事責任能力と治療の必要性は、正式な鑑定で判断される予定だった。ヘリで島へ来た怜司は、面会室の仕切りの前に立った。車椅子の母を、黙って見下ろした。「母さん」静江はびくりとし、口元の唾も拭わず顔を上げた。「れ、怜司なの? ここから出して。私はあなたの母親でしょう。鷹宮家の女主人なのよ!」怜司は感情を押さえて答えた。「裁判と治療の間、ここで自分のしたことに向き合ってください。判決を出すのは裁判所です。俺はもう、あなたの罪を隠しません」面会室の外で、精神科医と捜査官から説明を受けた。静江には脳血管の病気と急性の混乱が見られるが、犯行当時の責任能力には別途鑑定が必要だという。「治療の結果に、こちらの意見を入れるつもりはありません。捜査に必要な資料だけを提出します」怜司は面会記録に署名し、施設を出た。母の怒鳴り声が廊下の端まで追ってきても、振り返らなかった。罰も治療も、自分が決めることではない。麗奈は身柄を拘束されたまま起訴され、静江は鑑定留置中に、殺人と未成年者略取の教唆について調べられていた。鷹宮グループの金と人を動かす通路は、二人とも失っていた。外へ出る途中、佐伯がヘリの搭乗名簿と面会記録の控えを差し出した。怜司は母の容体が報道へ漏れないよう、医療情報へのアクセスを制限させた。刑罰逃れの演出にも、見世物にもしてはならなかった。東京へ戻る間に、面会した事実だけを紗月へ短く送った。――裁判所の鑑定手続きに従う。俺から別の処分は求めなかった。返事は、ずいぶんたってから届いた。――わかりました。悠真は今、眠ったところです。今日は病室に来ないでく
午前10時、東京・千代田区の鷹宮グループ本社50階大会議室。持株会社と主要子会社の社外取締役、国内外の大手機関投資家ら50人ほどが、緊急会議に集まっていた。上座の怜司は出席者名簿と定足数を確認した。「鷹宮静江氏の取締役・名誉職からの解任、特別関係者取引の中止、保有株式に関する議決権委任の解除、および裁判所への仮差押え申立てへの協力を、議案として上程します」スクリーンへ根拠資料が順に表示された。紗月の父の呼吸器を止めるよう命じた録音、麗奈を通して動いた改ざん報酬3億円の資金洗浄記録、そして昨夜502号室を襲った8人への依頼書と送金票だった。出席者から、驚きとため息が漏れた。「実の孫に、こんなことを……」静江の代理人弁護士が、真っ青になって立った。「会長、それでもお母様です! 家の体面も持株も、一方的に奪うことは会社法上問題があります!」怜司は弁護士を見た。「母親、ですか」短く聞き返した。「一つの家族の暮らしを壊し、自分の孫まで誘拐しようとした人です。実母だからと、会社の権限まで残すわけにはいきません」怜司は議案の文言を読み直し、採決を取った。「すべての名誉職と顧問職を解き、会社に関わる議決権の委任をただちに解除します。保有する15パーセントの株式については、裁判所へ仮差押えと処分禁止を申請します。被害回復の基金50億円は、私個人の財産から拠出します。賛成の方は挙手を」出席取締役全員が手を上げ、議案は全会一致で可決された。留置施設で決定を伝えられた静江は、書類を破ろうとして職員に止められた。採決後、社外取締役たちは静江の法人カード、秘書組織、入館権限をただちに止めた。監査委員会は特別関係者取引の全件調査と、捜査機関への資料提出を決議した。代理人が、持株は個人財産だと再び抗議すると、怜司はうなずいた。「そのとおりです。会社に没収はできません。だから裁判所の決定を求めます。取締役会が止めるのは、社内の権限だけです」その言葉は、議事録にそのまま残った。個人財産50
ナイフを持った男が怜司の手を振りほどき、病室へ飛び込もうとした。怜司は体をひねってその手首を壁へ押しつけた。警備員が盾でほかの侵入者を分断し、追いついた警察官が一人ずつ手錠をかけた。「患者のいる区域です! 武器を捨てて、うつぶせになりなさい!」怒声と足音が重なったが、争いは長く続かなかった。8人全員が取り押さえられ、静江は杖を落として後ずさりした。「れ、怜司! 私はあなたの母親よ。警察に渡すつもりなの?」怜司は病室と静江の間に立ち、一歩も退かなかった。「5年前、紗月の父親の治療を止めさせ、今日は俺の息子を誘拐するために人を送った。あなたはもう、守るべき家族ではなく、取り調べを受けるべき人です」階段を上がってきた警察官と、児童事件の担当捜査員が5階へ到着した。「鷹宮静江さん。武器を伴う建造物侵入、および未成年者略取未遂の教唆の容疑で逮捕します」手錠をかけられた静江は、身をよじって叫んだ。「怜司、助けなさい! 実の母親でしょう! 私は鷹宮家の女主人なのよ!」怜司は答えず、警察に映像の保管場所と目撃者の名簿を説明した。母が連れていかれると、血のついた手をアルコール綿で拭き、紗月と悠真へ慎重に近づいた。紗月は緊張が解けてふらついたが、ベッドの柵につかまって踏みとどまった。怜司は途中で止まり、先に尋ねた。「けがはないか? 二人とも」紗月がうなずいて、ようやく怜司は壁に手をついて息をついた。悠真がスーツの裾をつかんでいた。「おじさん……今度は、ばかみたいな目じゃなかった。少し、かっこよかった」怜司は笑いかけて、目元を押さえた。静江が警察と去っても、3人はしばらくドアの前から動けなかった。捜査員は怜司が男を制した経緯と、どの程度の力を使ったかを確認した。怜司は何も隠さず話した。紗月は悠真の酸素飽和度が96パーセントに戻ったのを見届け、映像の控えを保全する要請書へ署名した。児童担当者は、悠真へ一度に質問を浴びせなかった。色のカードや病室の絵を使い、誰がどこから入ったかだけを短く確かめた。紗月は録画
午前1時。小児病棟5階の主照明が一斉に落ち、廊下が闇に沈んだ。非常階段の防火扉が、音を立てて開いた。点検作業着の上に黒い上着を羽織った男が、8人入ってきた。手には特殊警棒、結束バンド、折り畳みナイフ。静江が悠真を強引に連れ去るため、雇った者たちだった。502号室のドアが非常用キーで開けられ、乱暴に押し開かれた。悠真の熱を確かめていた紗月は、はっとしてベッドの前に立った。「誰ですか! ここは重症の子どもの隔離病室です。出ていって!」暗がりの向こうから、チンチラとミンクのコートを着た静江が、金色の杖をついて現れた。口元には冷たい笑みがあった。「水瀬紗月。その卑しい手から、鷹宮家のたった一人の孫を引き取りに来たのよ」杖の先で紗月の鎖骨を突き、鋭く言った。「怜司が母親に逆らって暴れているのも、全部あなたがたぶらかしたせいでしょう。子どもは私が連れていって、鷹宮家の完璧な後継者に育てる。あなたは黙って消えなさい。逆らえば、5年前の父親と同じように、呼吸器を外されて死体になるわよ」紗月は点滴スタンドを握り、ベッドの前をふさいだ。「この子に指一本でも触れたら、ただじゃおかない。人殺し」「最後まで生意気な女ね! その女の頭を叩き割って、子どもを毛布でくるんで連れてきなさい!」紗月は非常呼び出しボタンを押したが、電源が落ちて反応しなかった。すぐに携帯電話で警察へ位置を伝え、悠真の酸素チューブが折れないよう、ベッドの頭側を壁へ寄せた。「ママ、ぼく……怖くないよ」声が震えていた。「怖くてもいいの。ママの声だけ聞いて、ゆっくり息をして」静江はあざ笑い、男たちへ入口をふさぐよう命じた。だが廊下の映像も入退室サーバーも、外部の警備センターへ自動でバックアップされていた。先頭の男が鉄パイプを上げ、紗月へ近づこうとしたとき、廊下の非常灯が一斉に点いた。「動くな」怜司が、防刃ベストを着た病院警備員とともに現れた。紗月を見たまま、短く尋ねた。「悠真の酸素は大丈夫か?」「今は大丈夫。







